基礎資料 発声と声帯振動―ファイバースコープを用いた観察―

声帯の観察の概要

はじめに

近年の日本の音声コミュニケーションの研究では、従来から考察の対象とされてきた発話内容(テクスト)や声の高さ(ピッチ)・声の強さに加え、声質、すなわちどのように「発声」するかについても注目されるようになりました。

言語臨床においては、特に子供が正しくない発声方法により声帯を傷め、音声障害をきたす「小児嗄声(させい)」の症例が多く報告されてきています。そのため、就学前教育(保育園・幼稚園)や学校教育での国語・音楽・保健の科目においても声帯を傷めない「正しい発声」の教育が必要であると考えられます。しかし、学校教育においては、相手に通じやすいような声の出し方や、のど(声帯)を傷めないような声の出し方についての指導項目が見当たらず、「発声」の教育 や理解の重要性が十分に行き届いているとは言えません。また、青年・中年層以上においても、カラオケなどで「のどを酷使」することによる声帯病変(声帯ポリープなど)も多く診察されています。

さらに、より円滑な対人コミュニケーションにおいては、話す場所(空間、相手の数、距離など)に適した、伝わりやすい発声をすることが不可欠ですが、これまで国語(日本語)、外国語教育などではこの点に関してあまり取り上げられてきませんでした。

以上の背景により、本教材では、発声の仕組みを理解するために、各音声器官と、声を作り出すもととなる声帯振動についての映像・音声を言語・音声教育の基礎資料として提供することを目的としています。コミュニケーションにおいて適切な音声を発するにあたり、また音声障害の発症や再発を防止するためには、いわゆる「声の衛生」(発声行動を変えて音声障害の改善をはかる方法)が必要になりますが、まず、どのような発声が「正常」で、どのような発声が「正しくない(逸脱している)」のかをまず知っておく必要があります。

本教材では、普段では直接観察できない声帯の振動の状態を、ファイバースコープ(内視鏡)を用いて撮影した映像資料を紹介し、いわゆる 「声の衛生」として指導されている発声方法と、それに逆らう「逸脱した」発声について、そのときの声帯の様子を視覚的に観察します。

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