私が薦めるこの一話

瀬沼文彰先生(西武文理大学)

Portrait  私は、某大手プロダクションで4年間、芸人をしていました。その後も、コミュニケーション学や社会学の視点から笑いの研究をしています。そうした立場からの一考察として指摘しておきたいのは、私たちの日常生活のなかで、芸人でもないのに、「笑わせること」が様々な場面で求められている現状です。それは、例えば、何気なく、他者から言われる「オチは?」「ボケてよ」「つっこんでよ!」「フリが」「返しが」…などのことを指します。

しかし、誰にとっても人を笑わせることは簡単なことではありません。そうしたなか、「わたしのちょっと面白い話」は、世代を問わず誰にでも1つや2つ披露できる日常生活の自分自身のエピソードです。おかしみを感じることはもちろん、話の節々から、その人の人となりが伺えます。私は「ちょっと面白い話」のそんなところがとても気に入っています。また、「ちょっと面白い」というネーミングは聞き手からすると、テレビ番組の「すべらない話」と比べ、ハードルが上がらないですみますし、気軽に話すことができるところもお気に入りのポイントです。

こうした笑いの作り方が、もっと世の中に定着すれば、今以上に、楽しい笑いがそれぞれの生活のなかに増えるはずです。既に、過去6回の作品は、様々なタイプの笑いが散りばめられているため、これから「ちょっと面白い話」を作りたいと思っている人の見本になることでしょう。さらに、1回見ても面白さが分からない作品の場合、何度か見てみることで、今度は、「他者の面白さに共感する力」や「発見する力」の形成にもつながることでしょう。

前置きがかなり長くなりましたが、私のお気に入りの作品をこのあたりで発表してみます。私のお気に入りの作品は……

2015年の日本語学習者部門、金賞に当たる話者36さんの「船長ゲーム」です。
お薦め作品のページへ

私自身、元芸人ということで、自分自身は、面白さの感じ方がやや屈折しているように思っています。というのも、私自身が、主観的に面白いと思えるものよりも、これを面白いと思う他者が多いだろうという視点で面白さを捉えようとしてしまうからです。

回りくどい言い方になりましたが、この作品は、そうした意味では、幅広い層にとって、おかしみが感じられるはずです。他国に行き、立場が違えば、似たような失敗はしそうですし、国内でも、自分がまだそこに慣れていない文化に属そうとした際には、似た経験をするかもしれません。さらに、そこで味わう恥ずかしさは誰にでもたやすく想像でき、共感することもできることでしょう。是非、ゆとりをもって、ハードルは過剰に上げすぎずに、この作品に触れてみてください。

もちろん、この作品だけに限らず、面白い作品は多くあります。様々な作品を見ることで、是非、発信する立場にもなってください。きっと、皆さんが発信すればするほど、日常生活のなかで、何気ない楽しい笑いがもっと増えて、いまよりも少しだけ明るい社会になることでしょう。そうした社会を私は期待しています。



『私が薦めるこの一話』の一覧へもどる
Design by Cloud template