私が薦めるこの一話

伊藤亜紀様(南山大学大学院生)

第6回投稿作品 2015007 話者2さん「くまちゃん靴下」
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「わたしのちょっと面白い話コンテスト」公式サイトにアップロードされているものの多くを見せていただいたが、無条件に「面白い!」と思えるもの、「う〜ん、これは笑えない」など様々な感想を抱いた。 自らが日本人だからか、日本人の話に慣れているからか、日本人の話に腹を抱えて笑うことが多く、自分の育ってきた文化を意識せずにはいられなかった。

 何かを見て、「面白い!」と思えるかどうかには、いくつかポイントがあると思う。 まず、単純に「エピソードや内容の面白さ」そのものがある。 人の興味は様々で、「面白い」と紹介したい話のバリエーションの多さにも驚いたが、日本人の場合は自らの体験を語ることが多く、日本語学習者の場合には、それに加えて、お国柄とも言えるブラックヒューモアを含んだもの、皮肉を笑いに変えたものなどを語るなど傾向があるそうだ。 内容が面白ければ、多少語りが下手でも笑える。 なんなら、多少日本語が下手なぐらいの方がより味わい深く聞こえる場合もある。 レベルに関係なく話せる話題で、語彙も比較的馴染みのあるものであれば笑いやすい。 しかし、語彙が非常に理解しづらいと、発音の聴き心地が気になり、笑うポイントを失ってしまうことがあるとも言える。
さらに、意図した“間”は面白いが、タイミングを間違えると、“沈黙”になってしまう。 発音や間の微妙な具合というのは重要な分、学習者が体得するのが難しいものであろう。

 次に大切だと思うのが、「落ち」の有無である。
例えば、「巻舌音と平舌音 2014061の謝さん」は最初、音声の話かと興味を持って聞いてみた。「きっと最後の最後に音の間違いによる失敗などの落ちが来る」と想像して聞いていたが、それがなく終わってしまっていた。 期待していた分、肩透かしを食らった気がして、「落ち、ないの?」とつっこまずにはいられなかった。 恐らく国民性などは関係なく、最後の落ちやどんでん返しというものは広く好まれるスタイルであると思いもするが、最後の方に期待を込めて聞いている自分に気づいた。 例えば、関西に住んでいた大学時代、大阪出身の知り合いと話すと、いつも「落ち」というものを期待され「面白い落ちがなければ、話しちゃダメなの?」とよく反論していたが、大阪の人でなくても、落ちを期待してしまうものなんだろうと過去の様々な体験を思い出した。

 内容や話の展開に加えて、非言語も含めて、様々な点からも笑えたのが、
「くまちゃんの靴下 2015007 話者2」だ。 最初に少し硬い表情で、無職という話題が出てきたので、どんな話かと興味を持って拝見すると、「無職、職探し、面接」という硬いキーワードととてもギャップのある可愛らしい「くまちゃんの靴下」を面接で履いていたという落ち。 話が進むにつれ、話者の表情も明るく変わり、内容のギャップと話の盛り上がりに向けての話ぶりがとても良かった。 上手に話を盛る人もいるが、それがわざとらしかったり、「大げさに言っている」とわかってしまったりすると白けにつながる。 「くまちゃんの靴下」は自然な話の流れ、盛り上がりに向けての表情の変化、登場するワードと落ちのギャップに笑えた。

 さらに、面白いかどうかの判定とは別の観点ではあるが、聞き手を含む、周りのリアクションも、画面を通して見ている私たちの気持ちを上げてくれることがある。
例えば、「爪切り 2013013 えっちゃんさん」では、ブラックジョークをあまり言わない日本人にしては、認知症、親の死に目といった言葉は一つ間違ったら笑えないものかと思うけれど、ノリのいい女性が隣にいて、時折挟む一言やツッコミ的な発話に笑わされた。 例えつまらない話であっても、聞き手の合いの手や周りの反応で面白い話になることもある。

 以上、面白いと思うのに必要なポイントを私なりにあげてみたが、一番のポイントは「何度聞いても面白い」という点である。 「何度聞いても笑える、内容も落ちも知っているけれど、笑える」という話がある。 その点でいくと、鎌田先生の「熱いお灸の話」は秀逸である。 サイト以外でも、以前直接ご本人からお話しいただいたが、何度聞いても面白い。 周りに留学生がいるからか、一つ一つの語彙や表現などを確認しながら進めるという親切さもあったが、それがもどかしいと思うほど、早くあの落ちに行きついてほしい、と思った。 おそらく、同じ話を来年聞いても、楽しく拝聴できると思う。

 「面白い話No.1!」を一つ選ぶのは大変難しいが、あえて決めれば、総合点で「くまちゃんの靴下」を選ぶ。 鎌田先生の「お灸の話」はサイトに上げられたものの中から選ぶ以上に、違う視点も加えてしまうので、次点としたい。



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