プロジェクト名称:「面白い話」で世界をつなぐ

プロジェクト担当者とその所属:定延利之(神戸大学)

プロジェクトの目的、内容とGNプロジェクトとしての意味

このプロジェクトは、「面白い話を好む」という人間の最も根源的な心性を利用して、(1)世界じゅうの日本語学習者どうしを日本語でつなぐと共に、(2)日本語学習者をこれまでにない強さで日本語母語話者につなごうとするものである。

具体的なプロジェクトの事業内容は、「世界各国で学習者(有志)に日本語で「面白い話」を話してもらい、それを収録し、インターネット上で公開する」というものである。これがなぜ、(1)世界じゅうの日本語学習者どうしをつなぐことや、(2)日本語学習者をこれまでにない強さで日本語母語話者につなぐことになるのかを、以下説明する。

(1) 世界じゅうの日本語学習者どうしをつなぐことについて。 一般に、日本語学習者は目標言語である日本語の母語話者の話には耳を傾けるが、自分以外の学習者の話には耳を傾けようとはしない。 同じクラスになった者どうしが口をきく程度のもので、学習者どうしの結びつき、交流は概して非常に希薄である。 だが、「面白い話」となれば話は変わってくる。人は面白い話が好きだからである。 このプロジェクトを実施すれば、日本語学習者は他の日本語学習者の「面白い話」にも耳を傾けるようになる。 つまり日本語学習者がクラス、教育機関、国を越えて、世界じゅうでさまざまな境遇に置かれている日本語学習者の生活の中の「面白さ」と向き合うことになり、日本語でつながるようになる。 このプロジェクトは「面白い話」を契機として、そのような場を作るものである。

(2) 日本語学習者をこれまでにない強さで日本語母語話者につなぐことについて。 伝統的な日本語教育はコミュニケーションを単なる情報の送受信と捉え、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうしたか)の情報の表現と理解に重点を置いた教育を展開してきた。 もちろん、その結果のプラス面は否定できない。 だが、多くの日本語学習者は日本語母語話者との人間関係の構築にも、情報のやりとりに優るとも劣らぬ重要性を感じている。 つまり、何かを面白いと感じる自分の「感性」を母語話者にアピールして認めてもらい、共感してもらうことは、学習者にとってはきわめて重要なことである。 だが、そのための教育は残念ながら展開されていないのが現状である。 このプロジェクトは、日本語学習者が自身のそうした「感性」アピール力の不足に気づき、それを教師とともに伸ばしていくための場を提供するものである。 これらの「面白い話」の音声動画資料は、学習者の口頭コミュニケーション能力向上のためのオンライン教材として利用可能なほか、日本語と学習者の母語のスピーチスタイルや、日本とその他の国々での「ユーモア」「笑い話」に関する比較研究データとしても活用可能である。

 このプロジェクトは過去に例のない新奇なものであるため、その実現可能性について付言しておく。 このプロジェクトは、代表者(定延利之)が実施中の、日本学術振興会の科研費による挑戦的萌芽研究「民間話芸調査研究「面白い話コンテスト」の国際的展開による音声言語データの共有化」(2015年度~2017年度、課題番号:15K12885)を、個人プロジェクトの規模を越えて大々的な規模で展開しようとするものである。 したがって、「面白い話」の収録・公開のために学習者と取り交わさなければならない合意書(弁護士作成のもの)や、「面白い話」を音声動画ファイルの形で公開するためのサーバは、この科研費研究の中で既に確保してあり、新たな財政的支出の必要は基本的にない。 学習者の中には「面白い話を日本語で披露すること」に興味を持ち、積極的に参加しようとする者が一定の割合で存在することも、予備的なアンケート調査で判明している。既に収録済みの学習者の「面白い話」の一部は、字幕付き音声動画ファイルの形でインターネット上に公開しており(http://www.speech-data.jp/chotto/2014F_sub/)、学習者の「面白い話」を収録・公開することは十分に実現可能なものと言える。
 しかしながら、上記の科研費研究は定延個人のプロジェクトに過ぎず、人的資源の圧倒的欠乏は否むべくもない。 具体的には、日本語学習者の中から有志を募って「面白い話」をさせ、その様子を収録する作業に関する海外協力者は定延の周囲の知己に限られており、オクスフォード大学(イギリス)・エアフルト大学(ドイツ)・ボルドーモンテーニュ大学(フランス)・ルーヴェン大学(ベルギー)・ノボシビルスク国立大学(ロシア)の少数の日本語教員に限られている。
 GNの世界的な人的ネットワークを活かし、科研費研究に組み合わせることができれば、「面白い話」を通じて学習者を日本語で世界とつなげるという企ては、文字通り世界的なスケールとインパクトで、一気に進めることができると考え、申請に至った次第である。例のない企画ではあるがご高配をお願いしたい。

プロジェクト期間:財政的なサポートが可能な科研費研究の期間(2016.4.1-2018.3.31)とする。

プロジェクトの実施に関して以下の方々にご協力いただいています。(アルファベット順)
萩原順子先生(オックスフォード大学)
林良子先生(神戸大学)
鎌田修先生(南山大学)
国村千代先生(レンヌ第一大学)
Marcella Maria Mariotti先生(ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学)
仁科陽江先生(広島大学)
奥村朋恵先生(ノボシビルスク国立大学)
Irina Pourik先生(ノボシビルスク市立「シベリア・北海道」文化センター)
三枝令子先生(一橋大学)
櫻井直子先生(ルーヴァン大学)
嶋田和子先生(アクラス日本語教育研究所)
昇地崇明先生(ボルドーモンテーニュ大学)
宿利由希子様(神戸大学院生)
田畑安希子様(神戸大学非常勤研究員)
竹内美津代様(神戸大学非常勤職員)

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